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PREVENTION

災害大国ニッポン、普段そばにある家電が「もしも」をサポート。
シャープAIoT家電が可能にする、“頑張らない防災”とは

AIoT頑張らない防災
「誰一人取り残さない」社会を実現する——近年、地震や津波、超大型台風やゲリラ豪雨など、自然災害の被害はますます甚大になっています。災害大国とも呼ばれる日本で、シャープとしてできることは何か。注目したのは、冷蔵庫やエアコンなど人々の暮らしに密着した家電です。インターネットに接続できるようになった家電だからこそできる防災への活用の取り組みについて、Smart Appliances & Solutions事業本部 Smart Life事業統轄部 AIoT事業推進部の長沢忠郎と佐藤浩司に話を聞きました。

逆転の発想から生まれたIoT家電の防災活用

2024年1月に発生した能登半島地震や、8月に九州で記録的な大雨をもたらした台風10号などを経て、自然災害に対する関心がこれまで以上に高まりつつあります。いつどこで発生するか分からない災害による被害を最小限に抑えるために、日頃から備えを意識しておくことはもちろん、災害が起きた時に速やかに状況を把握し、被害を最小限に抑えることも重要です。

そこで、シャープが進めているのが、家電が収集したクラウド上のデータを災害発生時における被害状況の把握に活用できないか、という取り組みです。シャープでは2016年からAI(人工知能)とIoT(モノのインターネット)を組み合わせた「AIoT」対応のスマート家電(以下、AIoT家電)の提供を開始し、「家電の操作履歴」や「利用者の生活パターン」などのデータをクラウドで分析・学習することで、各家庭の環境や好みに合わせた運転を実現しています。通常はネットワークに接続している家電が、大規模な災害時には停電などにより接続停止になることがある——それを、災害状況の把握に活かせる可能性が見えてきたのです。
「2021年12月に国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下、防災科研)の取出新吾さんとお会いし、シャープのAIoT家電が取得できるデータについてご説明しました。無線LANを利用するため、停電が発生するとデータに抜けが生じる点についてお伝えしたところ、取出さんから接続が切れること自体も重要なデータであり、詳細な被害状況の把握など災害対応に役立つかもしれないと指摘されました」(長沢)

翌年から防災科研とのAIoT家電の防災活動への活用の検討が開始され、その過程で2022年の福島県沖地震の停電データとその時期に該当するAIoT家電の接続率を照らし合わせました。すると、地域ごとの停電被害の概況を素早く推定できる可能性が見えてきたのです。2024年の能登半島地震や台風10号などの災害でも、同様の傾向を確認することができました。

2024年台風10号発生時の家電接続率
「いくつかの災害を対象に、実際に発生した停電情報と家電の接続率情報を照らし合わせることにより、停電と家電接続率との変化の関係が見えてきました。また、家電は宅内で使用されるものなので、停電解消エリアであっても、引込線などが損傷して停電が続いているなど、いわゆる「隠れ停電」の把握にも活用できる可能性が出てきました」(佐藤)

AIoT家電を停電推定などの状況把握に活用できる理由のひとつとして、多くの家庭で日常的に利用されていることが挙げられます。現在、シャープのAIoT家電はエアコンや空気清浄機をはじめ、冷蔵庫やヘルシオ、ホットクック、洗濯機など12カテゴリで累計1,000機種以上を突破し、市区町村カバー率は全国で約99%に達しています。AIoT家電から取得できるデータは製品の種類によって異なりますが、災害発生時の状況把握にデータを活用できる可能性が示されたのです。

AIoT家電の防災活用イメージ

つくば市、防災科研、シャープの3者による、日本初の実証実験

防災情報や災害時の避難情報など、住民の方々に必要な情報を自治体から漏れなく発信するために、情報発信の多重化や多様化が求められています。テレビやラジオ、Webサイトなどに加え、家電を使うことができれば、宅内において天候に左右されない形で、住民に情報発信の機会が広がります。そこで、2023年2月には茨城県つくば市の協力のもと、音声発話機能を備えたAIoT家電(冷蔵庫、エアコン、空気清浄機)を利用している市民を対象に協力の募集を行い実証実験が行われました。

実験に際しては、実際の災害情報の代わりに防災意識を高めるためのメッセージが1日3回送信され、参加者がその内容を正しく受け取れたかなどが調べられました。
また、参加者が家電の操作をしなくても家電からメッセージを発話させることで緊急時の情報伝達手段として機能することが実験で確認されました。さらに、参加者へのアンケート結果では、AIoT家電があれば防災のために特別な準備や追加の費用が不要である点が評価されています。

家電を活用した防災情報の発信イメージ
「普段使っている家電が、『もしも』の時の情報発信に活用できることが分かった点が大きな成果です。これは、防災のために特別な機器やサービスを用意するのではなく、日常と非常を区別しない『フェーズフリー』の考え方にもつながっていて、“頑張らない防災”の実現に向けた第一歩となります」(佐藤)

AIoT家電が持つ地域貢献へのポテンシャルとは

将来的には複数メーカーのIoT機器から得られる情報を集約し、国や自治体などの災害対応機関によって活用できるようにする研究が、防災科研によって進められています。
「普段」そばにある家電が 何処でも 何時でも 誰でも 「もしも」をサポート 把握する 制御する 伝える
さらに、得られた情報は、国や自治体だけでなく、民間企業においては、複数の生産拠点の被害状況を遠隔で把握することに役立てられるかもしれません。また、災害発生後の復旧という観点からは、ハウスメーカー等との連携によって被害に遭った家屋へのアフターサポートの提供などにも活用できる可能性もあります。
「自治体の災害対応や企業の事業継続に活用する未来像の背景には、そこに暮らす住民の安心・安全に家電で貢献したいという想いがあります。これまで家電は家事の負担を軽減し、家の中に笑顔を増やすことを目指してきました。人の暮らしに寄り添うAIoT家電によって災害時に救える命が増え、それぞれの地域を支える人たちの負担を軽減できれば、地域社会全体にも笑顔が増えるのではないかと考えています」(長沢)

防災・減災、そして、地域社会への貢献へ。シャープのAIoT家電が持つポテンシャルは、家電そのものの存在意義を新たに広げてくれるのは間違いありません。
エリアメール Jアラート 防災無線 FM 人工衛星 IoT家電 SNS テレビ
【謝辞】
本研究の⼀部は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「スマート防災ネットワークの構築」(研究推進法⼈:国⽴研究開発法⼈防災科学技術研究所)によって実施されました。

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RECYCLING

家電が何度も生まれ変わる!?再生プラスチックの
可能性を広げるアップグレードリサイクルの取り組み

解体作業
皆さんは、使い終わったプラスチック製品の行き先を考えたことがありますか?ペットボトルのリサイクルは身近な例ですが、私たちの暮らしを支える家電や自動車にも大量のプラスチックが使われています。これらの使用済みプラスチックの再利用は、いまや地球規模の課題となっています。「サーキュラーエコノミー(循環経済)が実現した未来では、“廃棄物”という言葉が消えるかもしれません」こう語るのは、シャープのリサイクル技術の開発を担う福嶋容子。家電業界の常識を覆す画期的なリサイクル技術によって、使い終わったプラスチックはどのように生まれ変わり、私たちの生活をどう変えていくのか。シャープの取り組みをご紹介します。

家電リサイクルに立ちはだかる複合プラスチックの再生に挑む

エアコン、冷蔵庫、洗濯機、テレビの家電4製品は、2001年に施行された「家電リサイクル法」によって、廃棄物を減量するとともに、有用な部品や材料をリサイクルし資源を有効利用しています。そして、これらの使用済み家電に含まれるプラスチックは、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、ABS樹脂など複数の素材が用いられています。また、回収部品には単一素材で構成された部品のほか、複数の異なる樹脂金属などの異素材が取り付けられている部材も数多くあります。特に後者のような「複合プラスチック」は、単一の素材で作られたペットボトルと比べて回収と再生を難しいものにしています。

グリーンプロダクトやリサイクルの取り組みを続けてきたシャープが、家電リサイクル法の施行に先駆けて、家電4品目を再資源化するためのプロジェクトを発足したのは1999年のこと。その後、関西リサイクルシステムズ株式会社(以下KRSC)と共同で、家電の各部品から単一のプラスチック素材を回収するための技術開発に挑むことになりました。
「家電製品には多くのプラスチック素材が使用されているため、資源の有効利用を進めるには金属だけではなくプラスチックの再生が必要です。シャープとしては、どうしてもプラスチックを繰り返し再生する方法を確立しなければならない、そんな覚悟と決意で挑みました。実際に回収される家電製品は、メーカーや型式、製造時期や使用コンディションも千差万別で、共通の解体・回収手法はありません。そこで、100台にも及ぶ洗濯機を集めて解体する実験を行いました」(福嶋)

高純度の再生プラスチック実現のカギは、人の手と目

回収したプラスチックを新たな製品の素材としてリサイクルするためには、プラスチック素材を選別し、金属などの異物を取り除く必要があります。家電の手解体部門を管理するKRSCの佐野稔さんは、素材回収の工夫について次のように話します。
「例えば、洗濯機の回転翼(パルセーター)は多くのメーカーで単一素材のPPが使われています。しかし、その軸受けには金属部品がインサート成型(金属と樹脂の一体成形)されています。そこで、中心の金属部分のみを打ち抜く『芯抜き装置』を開発し、PP素材だけを無駄なく回収しています」

また、洗濯機の蓋部分には、配線や電子基板、スポンジやラベルなどさまざまな素材も組み込まれています。この部分の分離解体や汚れの除去は1台1台、人の手で行われ、純度の高い再生用プラスチックの回収に繋がっています。家電リサイクルプラントの操業を担当するKRSCの山田順一さんは、回収と分解のプロセスの重要性について次のように語ります。
「回収プラスチックを新品と同等の品質に戻せるかどうかは、解体段階での作業にかかっているとシャープさんから伺っています。ひとつポイントとして、家電製品が変化していくなか、新たな部材(素材)が発見された時に再生使用できるか都度確認することを、定着するようにしました」

人の目と手によって選別されたプラスチック素材は、破砕処理などを経て、最終的には素材加工メーカーによって再生ペレット(粒状のプラスチック原料)に生まれ変わります。シャープとKRSCを中心に開発されたこの「自己循環型マテリアルリサイクル」が2001年に実用化されて以来、すでに累計約2万トンのプラスチックが新たなリサイクル材料として再生され、新しい家電製品の部材に採用しています。

「何度も生まれ変わる家電」リサイクルは次のステージへ

数種類の添加剤
品位の高い再生プラスチックを安定的に作製し、新たな家電製品の材料として再利用する自己循環型マテリアルリサイクルは、実際にどのような成果をもたらしているのでしょうか。例えば、現在シャープが製造する新品のタテ型洗濯機のほとんどの水槽ユニットにリサイクル材料を使用しています。そして現在、水槽から水槽へのリサイクルは4巡目に入っています。このリサイクルは、回を重ねるごとにCO2排出削減効果が高まることが期待されるほか、シャープが2050年に向けて掲げている、新規採掘資源の使用をゼロにする目標にも大きく貢献します。
「回収したプラスチック素材の再生には、酸化防止剤など数種類の添加剤を適切に配合することが重要です。さらに、新たな添加剤処方の開発により、従来よりも剛性を高めたり、難燃性や抗菌性、耐候性といった新たな機能を付加したりすることも可能です」(福嶋)

このようなアップグレードリサイクルの研究開発は、再生プラスチックの用途拡大や、人々の環境意識の変革にも良い影響をもたらす可能性があると、福嶋は語ります。
「現在、リサイクル素材は家電の外観部品にはほとんど使用されず、目立たない部分に用いられています。しかし、シャープでは設計部門やデザインチームと協力し、主要な外観部品への使用に向けた研究を進めています」

環境問題への意識が高まることで、落ち着いた風合いの再生紙が人々に受け入れられたように、サーキュラーエコノミーに参加している実感を得られるシャープの家電が登場する日も近いかもしれません。